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東京高等裁判所 平成7年(行コ)71号 判決

控訴人(原告) 学校法人白金幼稚園 外一二六名

被控訴人(被告) 運輸大臣

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成五年三月二五日付けでした控訴人らの審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二当事者の主張

当事者の主張は、次に付加訂正するほかは原判決の事実第二記載のとおりである。

1  原判決七頁九行目の「敷設されることになり、」の次に「付近住民は工事に伴う騒音、振動の被害を被るほか、」を加える。

2  同一七頁一行目の次に行を変えて「4 さらに、鉄道事業法が保護している利益としては、〈1〉一般的公益に吸収解消される限度により保護している利益と〈2〉一般的公益に吸収解消されるにとどまらず、これと並んで個別的利益としても保護されている利益とがあるところ、控訴人らの環境利益は、〈2〉の利益に属するものである。とくに、控訴人らの環境利益は、本件路線の工事によって侵害された場合には事後的な回復が困難であることを考慮すべきである。このことは、控訴人らの環境利益の実体の審理を通じて明らかになるものである。」

第三証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も、別紙第二目録記載の控訴人らについては本件訴えを却下し、その余の控訴人らについて本件請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりである。

1  原判決一七頁九行目の末尾に「被控訴人は、不服申立人適格を有しない者は、取消後の審査で実体審理を受けることができないから、裁決の取消しを求める利益がないと主張するが、本件訴訟は、申立人適格がないとして審査請求を却下した決定の当否を争点とするものであるから、これを不適法な訴と解することはできない。」を加える。

2  同二〇頁一一行目の末尾に「逆にいえば、当該行政処分の本来の効果として実体法上の権利又は利益が制限されない場合には、その利益は、当該行政処分によって法的な制約を受けるわけではないから、その利益の侵害を主張する者は、当該行政法規によって特に保護することを考慮されている場合にのみ行政処分に対する不服申立てをすることができ、それ以外の場合には、行政不服審査、行政訴訟以外の一般の救済方法によって救済をはかるべきである。」を加える。

3  同二五頁七行目及び同二六頁一〇行目の「普通鉄道構造規則等」をそれぞれ「普通鉄道構造規則」と改める。

4  同二六頁四行目の末尾に「(法六五条は、鉄道事業の免許及び鉄道事業における基本的な運賃及び料金に関する認可に際して利害関係人又は参考人の意見を聴取することを定めるにとどまる。)」を加える。

5  同二八頁五行目の「法八条、九条の規定」から同六行目末尾までを「控訴人ら主張の各法規から、本件処分の根拠となった鉄道事業法九条が一般公益を保護する以上に国民個々人の具体的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない。すなわち、自然環境の保全も、公共の福祉・利益を構成するものであり、これに配慮すべきことは当然のことである。ただ、これに関する周辺住民の個人的な利益は、いわゆる反射的利益にとどまり、これを直接の保護法益として含むものではない。」と改め、同九行目の「行政法規」の次に「ないしそれに関連する法体系全体」を加える。

6  同二九頁六行目の末尾に「すなわち、運輸行政に係わるという点では共通する航空法であっても、航空機の航行に起因する障害の防止をはかることをその直接の目的の一つとしており(一条)、同法一〇〇条の事業計画の内容も航空法の目的に沿うことを要求されているのであって、その上その他の航空機の騒音規制に関する関連法規(公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律等)の存在にかんがみれば、航空法が飛行場の周辺住民の個別的利益(主に騒音に関するもの)を保護しているからといって、鉄道事業法も鉄道の周辺住民の個別的利益を保護していると解することはできない。さらに、鉄道と空港とでは、これによってもたらされる公共の利益や受益者の内容・範囲・程度と侵害を受ける利益のそれとの間には大きな差があり、これを同一に論ずることは到底許されない。」を加える。

7  前項の付加部分の後に行を変えて「3 控訴人らは、控訴人らの環境利益の実体を審理することによって、その環境利益が鉄道事業法によって個別的利益として保護される利益であることが明らかになると主張するが、これまで述べてきたとおり、鉄道事業法は控訴人ら主張のような環境利益について一般的公益として保護する以上に個別的利益として保護するものではないから、控訴人らについて保護すべき環境利益が存在するか否かに関して実体審理をする必要はない。

二  以上の次第で、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲葉威雄 三輪和雄 浅香紀久雄)

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